「シェイプ・オブ・ウォーター」を待つことに決めた
「シェイプ・オブ・ウォーター」が公開されましたが、上記の事情により見ることが難しくなってしまいました。
本作は第90回アカデミー賞において音響編集賞、音響ミキシング賞の候補にあがっているとおり、劇場音響で見ることも間違いなく必要なのですが、どのような編集が働いているのか知らない*1以上、そちらを楽しむのは輸入盤を見てから、になるかと思います。
補足:掲載記事について
このバージョンは監督・製作者の承認の元、アメリカ公開バージョンからの一切のシーンのカット・差し替えはなく、1箇所のみぼかし処理を施しております。#シェイプオブウォーター
— FOXサーチライト・ピクチャーズ (@foxsearchlightj) 2018年2月27日
「シェイプ・オブ・ウォーター」の日本公開において、シーンのカットが無く、ぼかしがわずかなものであれ「R-18併映なし」という結果になったのはどうしても耐え難く、強い言葉で批難するようなかたちとなってしまいました。
このような問題は定期的に話題にはなるものの、実際の所その実態が明らかになることは基本的にありません。しかし、観客にとって不誠実な公開が繰り返されることはあってはならないと思います。「物語に支障がないからいいじゃん」、という意見もあるかと思いますが、「修正されている状態では支障がないか、あるかを判断できない」のが問題なのです。その状態で詳細なレビューを行うことは難しく、作品にとっても不誠実です。後日再度投稿させていただくかとかもいますが、その際は劇場公開版もチェックしてから、となるかと思います。
例とした「ぼくのエリ」「チャッピー」の害悪は言わずもがなですが、もう一点追加するなら「羊たちの沈黙」のあるシーンがあげられます。こちらはある人物の内心を的確に描いたものですが、日本版ではモザイクによりただただ下品なものとなりました。詳しい経緯は以下のNovella様の素晴らしい記事に詳細が記載されています。
また物語の筋を変えないぼかしとしては、「ドラゴンタトゥーの女」「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」があります。これらはいかに物語の筋を変えずとも、場面がシリアスであればあるほど、それひとつで失笑ものになる、ということの典型例です。
ぼかし抜きで書けない事情があるのならば明らかにしてほしい。一部であれ修正するのであれば、今回行われたような事前告知(告知を行ったこと自体は素晴らしいです)をする。可能であれば無修正版の同時併映、ないし事後日程の予定を告知する。
このあたりは最低限、実行していただきたいと思います。
デル・トロの美術
デル・トロは国内外問わず、非常に高い評価を得ている作家です。カルト怪奇映画、ラブクラフトの作品群にそのルーツを持つといわれる多彩なクリーチャーの数々、「パンズ・ラビリンス」に描かれたスペイン内戦に翻弄される一家の現実とそれに寄り添う深淵の闇とファンタジックな美術、少年趣味を剥き出しにした「ヘルボーイ」「パシフィック・リム」、ゴシック・ロマンスを見事に描いた「クリムゾン・ピーク」。
2013年「パシフィック・リム ビジュアルガイド」がShoPro Booksより発売されて以降、国内でも「ギレルモ・デル・トロ 創作ノート 驚異の部屋」*2(以降全てDU BOOKS)、「ギレルモ・デル・トロ クリムゾン・ピーク アート・オブ・ダークネス」*3、また2016-18年に開催されたデル・トロの個人展覧会オフィシャルガイドブック「ギレルモ・デル・トロの怪物の館 映画・創作ノート・コレクションの内なる世界」*4といった作品集が邦訳・発刊されており、今月末には新たに「ギレルモ・デル・トロのパンズ・ラビリンス クリーチャー制作の裏側に迫る」*5が発売されます。これらはハードカバー版以外にも「クリムゾン・ピーク」を除いて英語版がKindle化されており、amazon.co.jpからも容易に購入することができます。
さて、3月13日に発売される「シェイプ・オブ・ウォーター」のグローバル版ブルーレイですが、デル・トロ作品にしては珍しくコメンタリー・トラックが収録されません。"Crimson Peak"、"Pacific Rim"のコメンタリーにおいて各シーンのイマジネーション、制作秘話等を喋り倒してくれたものを楽しんだ身としてはいささか残念ではあるのですが、デル・トロはその真意を以下のように語っています。
「ブルーレイには多くの舞台裏、メイキングの特典映像を収録した。それとこれは僕がコメンタリーを拒否した最初のブルーレイになる。それは、僕にとって初めてのことだが……この映画がやっていることは、映像に載っていると思うから。ビジュアルガイドを買ったり、ナイト・イベントに来てもらえればもちろんぼくは喋る――そこでは拒否なんてしないよ――でも、コメンタリーを載せる必要はないと思った」
The Shape of Water’ Blu-ray Details Revealed; Del Toro Explains Why No Commentary Track| Collider
ここまではっきりといわれてしまった以上、なおさら映像は無編集のものをしっかり見たいと思ってしまいます。到着は2週間近く後になるかと思いますが、最高の監督の最高の作品を見られることを、とても楽しみにしています。もちろん、無修正版の併映が実現されればそれが一番良いとは思うのですが。
以下、特典映像の詳細を記載しておきます。
・A Fairy Tale for Troubled Times(混沌の時代に贈るおとぎ話)
・Anatomy of a Scene: Prologue(解剖:プロローグ)
・Anatomy of a Scene: The Dance(解剖:ダンス)
・Shaping the Waves: A Conversation with James Jean(波を作る:James Jean*6との対談)
・Guillermo del Toro’s Master Class(先述の"デル・トロ展"の様子を収録したものかと思います)
・Theatrical Trailers(劇場予告編)
ブック・オブ・ライフ ~マノロの数奇な冒険~
これだけでは何なので別作品の話をしますが、ギレルモ・デル・トロが製作として関わっている「ブック・オブ・ライフ ~マノロの数奇な冒険~」というアニメ映画があります。
メキシコの祝祭日・「死者の日」をテーマにしたアニメーションとのことで、公開日が迫るディズニー最新映画「リメンバー・ミー」の前に見ておくと面白いかもしれません。物語のプロットは全く重なっていないのですが、シェイプ・オブ・ウォーターに対する「下品なディズニー映画」というレビューをうっかり目に入れてしまった際、浮かんだのがこちらの作品でした。……もちろん本作が下品、という意味ではありません。
日本では映画祭での無料上映のみ行われDVDスルーとなり、デル・トロ製作フィルムの中でも見過ごされがちな一本*7ですが、かなりの秀作です。
本作もamazon Kindleにて、"The Art of the Book of Life"というコンセプト・アートブックが販売されています。こちらも美麗なイラストが並ぶ一品でした。
*1:知りたくない、という表現が正しいかとは思いますが。
*2:"Guillermo del Toro's Cabinet of Curiosities: My Notebooks, Collections, and Other Obsessions"
*3:"Crimson Peak: The Art of Darkness"
*4:"Guillermo del Toro: At Home with Monsters: Inside His Films, Notebooks, and Collections"
*5:"Guillermo del Toro's Pan's Labyrinth: Inside the Creation of a Modern Fairy Tale"
*6:本作のヴィジュアル・ポスターを担当したアートディレクター。
他にも日本国内配給が中止されたダーレン・アロノフスキー監督作「マザー!」のポスター等を担当しています。