「海底47m」「ケージ・ダイブ」新作サメ映画2本と「SHARK MOVIE MANIA」について

海底47m

 三度目のベイビー・ドライバーを見るも全くノれず非常に厳しい思いをしています。

 いろいろ嫌になり「ジョーズ」「オープン・ウォーター」「オープン・ウォーター2」を見たあと横浜ニューテアトルで「海底47m」を見たので、こちらを同じく新作タイトル「ケージ・ダイブ」と絡めてサメ映画の話をします。

 以下、「オープン・ウォーター」「オープン・ウォーター2」「ケージ・ダイブ」の致命的なネタバレ、並びに「海底47m」の若干のネタバレがあります。また、Rue Morgue Magazine "SHARK MOVIE MANIA" に触れている日本語の記事が(探した限りではどこにも)ないため、そちらについても触れておきます。

海底47m

 昨年公開された「ロスト・バケーション」(2016)と並ぶ、もしくは超える、最高のサメ映画だと断言できます。まともなサメ映画を久しぶりに見ることができました。

 舞台はメキシコ。婚約者と別れたばかりの妹を連れ、カリフォルニアから傷心旅行にやってきた姉妹が現地の男二人に誘われ、"Cage Diving"と呼ばれる鉄の檻に入って野生のサメを間近で見るアトラクションに誘われる。怖がりながらも間近で見る大迫力のサメに興奮する二人だが、檻を釣っていたワイヤーが切れてしまい47mの海底に落下。途切れる無線、限られた酸素、周りは野生のサメ。無事に生還できるのか…という、ジョーズの亜種とははっきり異なるソリッドシチュエーションホラー作品です。
 海底を宇宙空間とするのであれば「ゼロ・グラビティ」、捕食者のいる密閉空間からの脱出という意味では「エイリアン」または最近公開された「ライフ」、ないし雪山にて故障したリフトの上に取り残されて帰れない、寒さに凍えていくなか下には狼が……というワンシチュエーションホラー映画、「フローズン」に近い作品です。
 「ジョーズ」下敷きにしたをいわゆる「よくあるサメ映画」の範疇に収まることがない、非常にフレッシュでありながら発想はシンプル、更に本編90分以内、そしてサメがしっかりと恐ろしい、と正直文句の付け所がありません。

 本作の絶望感はあらゆるサメ映画の中で群を抜いています。
 理由は「主人公側に目立った落ち度が見当たらない」「あり得る事態のみで最悪のケースが想定されている」そして「本編のおよそ7割以上が海中にて進行する」ことに依るでしょう。
 同種のソリッドシチュエーション形式のサメ映画としては前述の「オープン・ウォーター」が著名ですが、それらがあくまでも「海の真ん中に置き去りにされる」恐怖を描いているのに対し、
「海底」は文字通り視界のきかない海の底、更にどこから現れるか知れないサメから身を守るための檻の中と二重の閉鎖空間、そこに加わるタイムリミットと、あらゆる要素が観客に息が詰まるほどの閉塞感を与えます。
 更に音の使い方も見事ですサスペンス調の驚かしではなくホラーの文脈。この時代にこんなサメ映画が劇場で見られるとは思いませんでした。

「ケージ・ダイブ」

 こちら日本のタイトルにはありませんがオープン・ウォーター」シリーズの3作目となっています。
 「オープン」初代は沖で海中ダイビングをしていた夫婦がヨットに置き去りにされサメに囲まれる話。「オープン2」はクルージングを楽しんでいた若者たちが海に飛び込むも誰もハシゴを降ろしていなかったためクルーザーに戻ることができず次々力尽きていく話です。
 2作とも前述の通り沖に放置される恐怖を書いたシリーズなのですが、1作目は開始5分で局部モロ出しのベッドシーンに突入、危機感があるのかないのかわからない夫婦の口喧嘩シーンが大半を占め、
2作目は登場人物が全員バカなうえ序盤でヒロイン以外全員の水着を結んでロープを作ったせいであらゆるシーンに俳優のケツと女優のおっぱいが映りまくるので真面目に見るのは正直厳しい作品でした。ちなみに「2」にはサメが出てきません。

 そして3作目「ケージ・ダイブ」ですが、ケージに乗ってダイブするのは約1分間です。
 男兄弟2人と弟の彼女がケージダイビング中に津波に巻き込まれて檻は全壊、野生のサメだらけの海に放り投げられた事故、を特集したテレビ番組を装ったファウンド・フッテージジャンルであり、これも今までのサメ映画ではなかなか見られなかった試みです。*1

 SHARK MOVIE MANIA に監督のインタビューが掲載されていたため、以下和訳して引用します。

”竜巻に乗ったり。一家に対して個人的な復讐を行ったり、浜辺にあがって人々を食い荒らしたりするサメに飽き飽きしている人には新鮮な喜びを与えられると思う。ほとんどのサメ映画は無茶苦茶だ――しかし本作は観客に対し、「本当に起こるかもしれない、と観客に強く思わせる」ことを意識した。” (Page.54 A CAGE DIVE GONE WRONG)

 露骨に「シャークネードシリーズ」「ジョーズ'87 復讐編」*2「サンド・シャーク」*3を見下した発言ですが、本作がそれらの作品と比べて明らかに出来が優れているか、というと首をひねるところが多々あります。

 シリーズ前作に比べて進化しているところもあります。
 まずサメが出てきて人間を食べる。これは1にも2にもなかったシーンです。サメが出てきて人間を食べないと話にならない。そして人間ドラマを比較的きっちり書いている。後々伏線になる三角関係を短い時間の中でわかりやすく伝え、ファウンドフッテージの弱点になりがちな音楽面についても編集のうまさで違和感を感じさせません。
これは1の雑な夫婦描写と2のバカ共と違って非常に力量を感じさせるところでした。

 そしてダメなところもあります。登場人物が全員バカで、後半はバカの口喧嘩が大半を占めます。
 女がどれほどバカかというと、サメに囲まれながらやっとの思いで手に入れた非常救命用ボートに乗り込み、寒いからと火をつけた発煙筒でボートを炎上・爆発させ、恋人に責任を押し付けたあとバレそうになった浮気について言い訳を続けている最中にサメに食われて勝手に死にます
 残された男二人も救助も来ていないのに空気の漏れた救命胴衣にしがみつきながら痴話喧嘩を続けます。序盤シンプルではあれど彼らの内面をしっかり描写してしまいわかりやすい悪役顔もいないぶん、もういいからとっとと食われてしまえという感情しか生まれてきませんでした。
 ただ、主観視点でサメに食われるカメラの映像は見事でした。ここはいいところですね。

SHARK MOVIE MANIAについて

 2017年にカナダの出版社から発売されたサメ映画のムック本です。ゾンビ映画、戦争映画について同様の書籍は日本語英語問わず多数出版されていますが、サメ映画にジャンルを絞ってのムック本はおそらく世界中でも(同人誌を除いて)本作のみでしょう。
 内容としては「ジョーズ」「シャークネード」の製作者・関係者インタビューが大半であり、その合間合間に「オープン・ウォーター」シリーズや「メガシャーク」シリーズのレビューが挟まれています。中でもリチャード・ザナック*4のインタビューでは

”本当はブルース*5をオープニングの女性が死ぬシーンでも使う予定だったが、機械の故障で動かせずにやむなく水中からの視点カメラのみで役者には溺れる演技をさせた。しかし批評家たちは「すばらしい!こんなteasing=(じらし)があったとは」と絶賛してくれた。だが残念ながあれは意図的なものではない”(Page 10.FEAR OF THE WATER)

 といった他媒体で文字になっているのを見かけたことがない情報や、シャークネードの脚本家が街でいきなり「殴っていいか?」と聞かれ、理由を問うと「俺はシャークネードの監督だ」「オーケー、お前には俺を殴るすべての権利がある」と答えたという下りなど、サメ映画ファンにとっては楽しい本になっています。

 また1975年の「ジョーズ」以後、いかに「ジョーズ」亜種が、特にイタリアで乱造されていったか?また最初の「ジョーズ」パロディである「人食いジョーズ・恐怖の漂流24時間」(1976)作者に聞く当時の熱狂、
及び歴史背景の合間合間にここにあげたような近年のメジャー作(「海底47m」「赤い珊瑚礁 オープンウォーター」「シャーク・ナイト」ほか)のレビューが挟まれたのち、"FILMING FRENZY"枠として、下記「トンデモ系」サメ映画の短評が載っています。
 最後に参考までにタイトルを列挙します。ジャケット写真を見ているだけで楽しくなってきますが、これらの中には「サメとこのジャンルを掛け合わせたら面白くなるのでは?」「ここにサメがいたら怖いんじゃないか?」といった製作者の純粋な喜びが見て取れる、いわゆる大喜利的な楽しさが詰まっています。
 ゲテモノと敬遠せず、機会があれば楽しんで見ていただけると幸いです。

トリプルヘッドシャーク」(3-HEADED SHARK ATTACK,2015)
シン・ジョーズ」(ATOMIC SHARK,2016)
ジュラシック・シャーク」(ATTACK OF THE JURASSIC SHARK,2013)
アイス・ジョーズ」(AVALANCHE SHARKS,2014)
DAM SHARKS(日本未公開)」(2016)
ゴースト・シャーク」(GHOST SHARKS,2013)
アイス・シャーク」(ICE SHARKS,2016)
「Jersey Shore Shark Attack (日本未公開)」(2012)
「OZARK SHARKS(日本未公開)」(2015)
ラニアシャーク」(PIRANHA SHARKS,2014)
PLANET OF THE SHARKS サメの惑星」(PLANETS OF THE SHARKS,2016)
ロスト・ジョーズ」(RAIDERS OF THE LOST SHARK,2015)
ロボシャーク」(ROBOSHARK,2015)
サンドシャーク」(SAND SHARKS,2012)
デビルシャーク」(SHARK EXOCIST,2016)
シャーク・プリズン 鮫地獄女囚大脱獄」(SHARKANSAS WOMEN'S PRISON MASSACRE(2016)
フランケンシャーク」(SHARKENSTEIN,2016)
「SNOW SHARK ANCIENT SNOW BEAST(日本未公開)」(2011)
シャーク・アタック!!」(SUPER SHARK,2011)
ゾンビシャーク」(2015)

*1:一応1作目、2作目も実話を基にしたフィクション、ということになってはいますが。

*2:または「オルカ」。

*3:ビーチ・シャーク」かもしれませんが。

*4:ジョーズ」プロデューサー

*5:本作でのサメの呼称