映画「ブリグズビー・ベア」ではルークがダースベイダーになる

Brigsby bear

 「スター・ウォーズ 最後のジェダイが公開されましたが、先日北米版DVDが発売された「Brigsby Bear」ブリグズビー・ベア)の話をします。監督はサタデー・ナイト・ライブ出身デイブ・マッケリー。脚本の2人ともども少年時代からの盟友という低予算インディー・ムービーですが、事前に示されたプロットから思いもよらない展開、何より感動に溢れた名作となっています。「フォースの覚醒」ラストカット、ならびに「最後のジェダイ」にて俳優としての復活を撮りだたされることの多い昨今のマーク・ハミルですが、これまでのキャリアにて演技者としての彼を認識したのは今作が初めてです。それほど本作のハミルは輝いていました。

 以下公開前作品ということもあり、ネタバレは控えます。

20180307更新:6月の日本公開が決定したようです。)

ブリグズビー・ベア」あらすじ

ブリグズビー・ベア あらすじ

 Brigsby Bearブリグズビー・ベア)はこの映画のタイトルであり、同時に作品内作品「Brigsby Bear」のタイトルでもあります。主人公のジェームスは両親のテッド(マーク・ハミル)、エイプリル(ジェーン・アダムス)とともに暮らしていますが、地下にある彼の家は世間から完全に隔絶されており、彼が事実上の軟禁状態に置かれていることが観客に示されます。彼がそれでも寂しさを覚えないのは、先述の「Brigsby Bear」――チープな80年代風・子ども向け特撮番組のVHSが毎週リリースされているから。700話以上にも及ぶBrigsby Bearと悪の帝王とのドラマが彼の部屋の本棚に並び、パソコン通信のフォーラムや家族との食事の場にてBrigsby Bearの最新エピソードについて語ることが彼の生でした。しかしある日警察によって両親は逮捕され、彼は外の世界へと連れ出されます。今まで暮らしていた両親は20年以上前に少年時代の彼を誘拐した他人であり、実の両親と妹は彼の帰りを待ち続けており、汚染されているから決して出るなと言われていた外はドームの天井もはりぼての星も動物もない、凄まじい数の人々と知らない技術、映画に溢れた世界でした。

 生みの親と暮らし始めるジェームズですが、もちろん彼の生活はうまくいきません。誘拐犯との生活で築かれていたルールは外の世界では通用せず、実の両親との食事、妹の誘ってくれたホームパーティーといった場でジェームスは徐々にコミュニケーションの失敗を経験します。そして何より、この世界には彼の人生だった「Brigsby Bear」が存在しないのです。それは誘拐犯夫婦がテレビなどによって外の世界を知らせないため――彼のためだけに撮影・製作していたオリジナルの作品でした。いかにBrigsbyが悪と戦い、ヒロインであるArielleとNina姉妹がいかに美しいかを説いても、誰一人その喜びを共有することができません。とある日、パーティーで酔いつぶれてしまったジェームスは映像作家志望・スペンサーの家で目を覚まし、彼とともに「Brigsby Bear」を自分の手で製作することに……という物語です。

 そこに元舞台役者であったフォーゲル警部、過去を切り捨てて再出発をしようとしているところに誘拐犯夫婦の象徴であるそれの製作にいい顔をしない両親、カウンセラー、過去Arielleとして「Brigsby Bear」の撮影に関わっていたホイットニー、そして勾留中の父親テッド……といった人物が絡み合い、先日公開された「KUBO」同様、物語とは何かということ、ならびに2015年の映画「ルーム」で描かれた、人生の再出発とはどういうことか? という強いテーマ性が描かれています。

「Brigsby Bear」においてのマーク・ハミル

ブリグズビー・ベア 解説

 テッド(マーク・ハミル)は本作において誘拐犯*1でありながら、Brigsby Bearのとぼけ調子の声、ならびに着ぐるみ役を演じ、かつ本作の悪役・Sun Snatcherも担当しています。その「月世界旅行」を模したビジュアル、そしていくつかのセリフはダースベイダーから引用されており*2、かつSun Snatcher=”太陽を盗むもの”、転じて”Son Snatcher”(息子泥棒)であることから、彼は誘拐犯である自身の罪を認識しつつも「Brigsby」を製作しつづけていた、という設定になっています。そして最大の愛と敬意をもって、ジェームズは自らの手でこの物語に「おしまい」を、彼なりの形でつけることになります。

 ゆえに本作中、ジェームズが映画完成のためにとる一つの行動が非常に感動的な意味を持つのですが、ここはハミルの演技なしにしては成立し得ないシーンになっています。「キリングジョーク」アニメ版でのジョーカー役の怪演もさることながら、彼の本質は演技そのものよりもこの声にあるのではないか、と思ってしまいました。

ブリグズビー・ベア 日本公開

 「Brigsby Bear」は非常にとぼけた作風ながら、物語の意味、過去との対面、そしてそれらに終着を与える意味について伝える見事に「痛い」作品となっています。Forumでは前述の通り、2015年の作品「Room」と比較したうえで本作を論じるコメントが多くありましたが、そちらでも誘拐・監禁された少年ジャックが部屋のさまざまなものに対して物語を作り、語りかけ、そしてその別離を描いていました。

 ジェームズ役・カイルが「細かいことはいいから劇場に行って映画を見てほしい」とコメンタリーで述べたように、「KUBO」と同じく、Easter Eggを拾うことに意味はあまり見いだせない見ればわかる、としかいえない作品であるためあまり語ることは多くありません。マーク・ハミルの復活作として、日本でもぜひ劇場公開してほしい作品です。DVDの特典映像ではプレミア公開時のトークショー、ならびにSun Snatcherのメイクのままコミカルに皮肉を吐く、彼"らしい"オフショットを見ることができます。

*1:厳密に実行犯は妻であり、彼はその生活を終わらせられなかった、ということが明らかになります。

*2:"I have you now"